睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは

睡眠時無呼吸症候群イメージ

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に何度も呼吸が止まる病気です。
呼吸が止まると体内の酸素が不足し、いわゆる「酸欠」の状態になります。
このとき身体は危険を察知し、無意識のうちに覚醒して再び呼吸を始めようとします。
その結果、睡眠が断続的に妨げられ、十分に眠ったつもりでも疲れが取れなかったり、日中に強い眠気や集中力の低下が生じたりします。

また、慢性的な酸素不足は心臓や血管をはじめとする全身の臓器に負担をかけ、高血圧、心疾患、脳血管障害、糖尿病など、さまざまな生活習慣病の発症や悪化に関係しています。
放置すれば命に関わるおそれもある、重大な疾患です。

医学的には「睡眠中に10秒以上の無呼吸が1時間あたり5回以上ある状態」が診断の目安とされます。
日本では中高年の男性を中心に、成人の約3~7%が該当するとされており、特に以下のような方は注意が必要です。

  • 肥満傾向のある方
  • 首が太い方
  • ご家族に同様の症状のある方
  • アルコールや睡眠薬を使用している方
  • 鼻づまりがある方

こうした傾向があり、日中の強い眠気を感じる場合には、早めに専門的な検査・診断を受けることをおすすめします。

このような症状はありませんか?

  • ご家族から「寝ているときに呼吸が止まっている」と指摘された
  • 寝ている間に大きないびきをかく
  • 夜中に何度も目が覚める
  • 朝起きたときに頭痛やのどの渇きを感じる
  • 日中に強い眠気があり、居眠り運転しそうになることがある
  • 集中力や記憶力の低下を感じる
  • 夜間に何度もトイレに行きたくなる
  • 原因がはっきりしない高血圧がある

これらの症状に心当たりがある方は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
早めの検査・相談をおすすめします。

睡眠時無呼吸症候群の種類と原因

睡眠時無呼吸症候群には大きく分けて以下の2つのタイプがあります。

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)

最も一般的なタイプで、睡眠中に上気道(のどの奥)が塞がることで呼吸が止まります。
肥満や扁桃肥大、あごの形状、加齢、アルコールや睡眠薬などが原因となります。

中枢性睡眠時無呼吸(CSA)

呼吸をつかさどる脳の中枢の働きが乱れ、呼吸指令が出なくなることで起こるタイプです。
心不全や神経疾患などが関係します。

睡眠時無呼吸症候群が引き起こす影響

睡眠中に無呼吸が繰り返されると、体内の酸素が不足し、脳や心臓をはじめとする全身に大きな負担がかかります。
その結果、以下のようなさまざまな健康被害が生じる可能性があります。

  • 高血圧、不整脈、心筋梗塞、脳卒中などのリスクが高まる
  • 糖尿病や脂質異常症の悪化
  • 慢性的な疲労感や仕事のパフォーマンス低下
  • 日中の強い眠気による交通事故や労働災害のリスク増加
  • 抑うつ傾向、集中力や記憶力の低下

これらの影響により、まわりから「イライラしやすい人」「物忘れが多い人」と誤解されたり、高齢者では認知症と誤認されることもあります。

こうした症状がある場合は、単なる睡眠の問題と考えず、早めに専門医の診察を受けることが大切です。

睡眠時無呼吸症候群の検査

睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われる場合、以下のような検査を行います。
当院では、いずれの検査もご自宅で実施可能です。

簡易検査(アプノモニター/スクリーニング検査)

自宅で手軽に行える、比較的簡便な検査です。
就寝時に小型の検査機器を装着し、呼吸の状態、酸素濃度の変動、いびきの有無などを記録します。
違和感が少なく、SASの可能性を大まかに判定するスクリーニングとして非常に有効です。

  • 中等度以上の無呼吸が疑われる場合は、精密検査(ポリソムノグラフィー)へ進みます。
  • 無呼吸が非常に重度と判断された場合は、精密検査を行わずにCPAP(シーパップ)という治療機器の導入が可能となることもあります。

精密検査(ポリソムノグラフィー/PSG:終夜睡眠ポリグラフ検査)

簡易検査で異常が認められた方に対して行う、より詳細な検査です。
睡眠中の脳波・心電図・筋電図・眼球運動・酸素濃度・呼吸の状態などを多角的に測定し、周期性四肢運動障害など他の睡眠障害の有無についても評価できます。

通常、医療機関に一泊入院して行う検査ですが、当院では入院検査には対応しておらず、自宅で行うタイプの精密検査を実施しています。

この検査により、睡眠時無呼吸症候群の診断確定と重症度の正確な判定が可能となり、今後の治療方針の決定に大きく役立ちます。

睡眠時無呼吸症候群の治療

治療は、原因や重症度、生活習慣に応じて適切な方法を選択します。

CPAP療法(シーパップ療法:持続陽圧呼吸療法)

CPAP療法は、中等症~重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)に対する標準的な治療法です。
毎晩、就寝時に専用の機械を使用し、鼻から持続的に空気を送り込むことで、気道の閉塞を防ぎ、無呼吸を改善します。

適応
  • 精密検査(PSG)で、1時間あたりの無呼吸・低呼吸回数(AHI)が20回以上
  • 簡易検査(アプノモニター)で40回以上
特徴
  • 睡眠時無呼吸の治療法の中で最も効果が高いとされています。
  • いびき、日中の強い眠気、早朝の頭痛などの症状の改善が期待されます。
  • 高血圧の改善傾向が報告されており、心血管疾患の予防にもつながります。

ただし、機器が処方されても使用しなければ効果はありません。
継続的な使用が非常に重要であり、患者さんご本人の努力に加え、医師や機器提供会社との協力体制によって、快適で効果的な使用環境を整えることが大切です。

マウスピース(口腔内装置)治療

マウスピース治療は、軽症~中等症のOSAの方に有効な治療法です。
下顎を前方に出す形のマウスピースを就寝中に装着することで、気道を広げ、無呼吸を防ぎます。

適応
  • 軽症~中等症のSASの方
  • または、CPAP療法が使用困難な方
特徴
  • 歯科医師と連携し、患者さん個人に合わせたマウスピースを作製します。
  • 毎晩の装着が必要です。
  • 医療保険で作製するためには、検査結果に基づく診断書・紹介状が必要となります。

装着後は、快適性と治療効果のバランスを見ながら調整が必要です。
ある程度慣れてから当院で再度検査を行い、治療効果が出ているかを確認することが重要です。

減量・生活習慣の改善

肥満はSASの大きなリスク要因であり、体重の減少によって大きな改善効果が期待されます。
そのほかにも、以下のような生活習慣の見直しが有効です。

  • 就寝前の飲酒を控える
  • 仰向けでの睡眠を避け、横向きで寝る
  • 規則正しい睡眠リズムを整える
適応
  • すべてのSAS患者さんに推奨されます
特徴
  • 治療の基本であり、他の治療法と並行して実施することが望ましいです。

軽症の方では、これらの改善だけで症状が軽減する場合もあります。

手術療法(扁桃摘出・鼻中隔矯正など)

一般的に、鼻や副鼻腔の治療だけではSASは十分に改善しないとされていますが、扁桃肥大や鼻中隔弯曲などが明らかな原因と考えられる場合には、手術が有効となるケースもあります。
その際は耳鼻咽喉科の専門医と連携して対応します。

近年では、「舌下神経電気刺激装置植込み術」という新しい治療法も登場し、2021年6月より保険適用が認められています。
この治療では、鎖骨下に埋め込まれたパルスジェネレーターが、睡眠中の呼吸に同期して舌下神経に微弱な電気刺激を与えることで、舌を前方に動かし気道を広げます。
就寝前に外部コントローラーでスイッチを入れることで装置が作動し、いびきや無呼吸の軽減、眠気の改善が報告されています。
当院では実施しておりませんが、適応がある場合には対応可能な医療機関をご紹介いたします。

睡眠時無呼吸症候群は、放置すると命に関わることもある疾患ですが、適切な検査と治療を受けることで、生活の質(QOL)を大きく改善することが可能です。
当院では、ご自宅で行える簡易検査から、専門的な治療まで一貫して対応しています。

この病気はご自身では気づきにくいことが多いため、「もしかして」と思ったときが、受診のタイミングです。
気になる症状があれば、どうぞお気軽にご相談ください。